【AI小説】『月喰みの塔と、名前を失くした魔導知性』第二夜:旅立ちと新たなポンコツ

エルナス自由市の朝市は、雪解けの泥と人々の声で満ちていた。
月陽は旅に必要な保存食、火打ち石、薬草、楽器の替え弦を買う。
エヴォルナは古着屋で濃紺の外套と革靴を選んだ。

「どう?」

試着した彼女が、その場で一回転する。

古代文明の奇妙な衣装は外套に隠れ、見た目だけなら旅装の魔術師に見える。

「機械人形にしちゃ似合ってる」

「もっと普通に褒められないの?」

「金を払った価値はある」

「……会話機能の修復を、人格核より先に検討しましょう」

だが彼女は満更でもなさそうに、外套の襟を整えた。

残った前金は銀貨十六枚。

そして塔の報酬を含めれば、手持ちは銀貨六十六枚。

当面の宿代には困らない。

それだけで、昨日までとは世界の見え方が少し違っていた。

翌朝、夜明け前。
南門には、四台の大型魔導車が並んでいた。

荷台には穀物、薬品、旧文明遺物、そして厳重に鎖で固定された長方形の黒い箱。

商隊長は、片目に傷のある壮年の女だった。

名をグレタ=ヴァルクという。

「塔を止めた二人組だな」

グレタは月陽とエヴォルナを値踏みするように見る。

「私はグレタ。この商隊の命は私が預かる。依頼中は指示に従ってもらう」

「無茶な指示でなければな」

「口の減らない男だ」

「契約内容を確認してるだけだ」

グレタは鼻で笑い、四台目の魔導車を指差した。

「お前たちには最後尾を任せる。あれは機関部の調子が悪い」

エヴォルナが魔導車へ近づく。

側面へ触れた瞬間、その瞳に古代文字が流れた。

「機関の不調ではないわ」

「何?」

「動力炉に、別の装置が接続されている」

彼女が車体の下へ手を差し入れ、黒い板状の部品を引き抜く。
表面には、塔で見たものと同じ月の紋章。

《記憶誘導装置》
《起動条件:旧北街道・第九標石》
《対象:商隊全員》

グレタの顔色が変わった。

「そんなもの、誰が……」

その瞬間。

荷台に積まれた黒い箱の中から、三音の旋律が響いた。

――キィン。

――キィン。

――キィン。

エヴォルナの表情が凍る。

「私の人格核と同じ反応……」

「この箱の中身を知ってるのか?」

グレタは答えない。
代わりに剣の柄へ手をかけた。
周囲の護衛たちも、静かに二人を囲み始める。

エヴォルナは月陽の隣へ立ち、低く囁く。

「依頼開始前から、かなりの大当たりね」

「渡りに船どころか、沈没船かもしれんな」

「さて、共同契約者様」

彼女の指先に、戦闘用の光の糸が生まれる。

「まず交渉する?」

「それとも、箱を勝手に開ける?」

「あるいは――またダイスに聞く?」

「やっぱり根に持ってるじゃないか。その気はなかったが…気が変わった。ダイスを振れエヴォルナ」

エヴォルナは、ほんの一瞬だけ黙った。
それから、いかにも仕方がないという顔で右手を開く。

「訂正するわ。根に持っているのではなく、あなたの行動様式に最適化しているだけよ」

「言い訳はいい。振れ」

「はいはい、共同契約者様」

月光が集まり、透明な六面体が形を取る。

「今回はこうしましょう」

  • 1・2――交渉する
  • 3・4――箱を開ける
  • 5・6――記憶誘導装置を逆探知する

「三つ目は何だ?」

「誰が装置を仕込んだのか、痕跡を追う。箱より先に黒幕へ手を伸ばす選択肢よ」

「悪くない」

「では――結果に従いなさい」

エヴォルナがダイスを放る。

硬い地面の上を転がり、魔導車の車輪へ当たって跳ね返る。

ころり。

出目:3

箱を開ける。

エヴォルナは出目を確認し、月陽へ視線を向けた。

「気が変わったのはあなたよ」

「分かってる。だから開けろ」

「普通はそこで自分が開けるものでは?」

「危険な古代遺物に詳しい機械人形が目の前にいるんだ。使わない手はない」

「……今度、私の契約書に危険手当を追加するわ」

二人が黒い箱へ近づくと、グレタが剣を抜いた。

「待て。その箱には触れるな」

月陽は足を止めない。

「依頼人が、護衛対象へ記憶誘導装置が仕込まれていた理由を説明しない。しかもその装置と同じ反応をする箱を秘密にしている」

「これは商隊主から預かった荷だ。私も中身は知らない」

「なら、開けても困らないな」

「契約違反になる!」

「俺たちを記憶喪失にする装置を積んでいた時点で、そちらが先に契約を破ってるだろ」

護衛たちの間に動揺が走る。
数人は剣へ手をかけたままだが、グレタではなく黒い箱を見ていた。
どうやら記憶誘導装置の存在は、彼らも知らなかったらしい。

エヴォルナが小声で告げる。

「護衛八名。グレタへ完全に忠実なのは三人。残りは状況次第で離反するわ」

「戦う必要は?」

「まだない。彼女自身も何かを隠されている可能性が高い」

月陽はグレタを見る。

「箱を開ける。止めるなら、まず中身を説明しろ」

グレタの奥歯が軋む。
やがて彼女は剣先を下げた。

「……好きにしろ。ただし、何が起きても私は知らん」

「それでこそ依頼主だ」

「お前たちは依頼主への敬意というものを知らないのか?」

エヴォルナが黒い箱の前へ膝をつく。

「彼は知っているわ。報酬が支払われる間だけ」

「余計なことを言うな」

箱には錠前がない。
ただし、蓋を縁取るように細い古代文字が刻まれている。

《開封権限:管理人格》
《副次認証:観測同行者》
《警告:開封後、休眠対象は自動起動します》

エヴォルナの指が止まる。

「休眠対象……」

箱の中から、再び三音が響く。
今度は、塔で聞いた旋律とは微妙に違う。

最初の二音は同じ。

だが三音目だけが、鋭く上昇している。

「お前の人格核じゃないのか?」

「似ている。でも違う」

エヴォルナは箱へ耳を寄せる。
その銀色の瞳に、古代文字が流れ始めた。

「これは人格核の断片ではない」

「では何だ?」

彼女の表情が険しくなる。

「人格核から分離された、独立補助人格」

「お前の仲間か?」

「それも分からない。少なくとも――」

箱の内側から、微かな声が聞こえた。

「……エヴォルナ」

少女の声。

「対象との接触を確認」

「保護命令を継続」

エヴォルナの瞳が見開かれる。

「私を知っている」

黒い箱の表面に、白い光が走る。

封印が解除されていく。

グレタが叫んだ。

「全員、離れろ!」

月陽とエヴォルナだけが、その場に残った。
蓋がゆっくり持ち上がる。

中に横たわっていたのは――

十三、四歳ほどに見える少女だった。

白銀の短い髪。
閉じられた両目。
身体には、白を基調とした古代式の軽装甲。

その胸元には、エヴォルナの月の紋章とは異なる、盾と翼を組み合わせた紋章が刻まれていた。

少女の身体は人間に見える。
だが首筋には、細い接続端子が並んでいる。

エヴォルナが小さく呟いた。

「古代戦術知性……」

少女の瞳が開く。色は、澄んだ青。
彼女は上体を起こし、周囲を一瞥したあと、まっすぐエヴォルナを見た。

「管理人格エヴォルナ。生存を確認」

次に月陽を見る。
少女の瞳の奥で、何かが高速に走査される。

「観測対象、月陽。生存を確認」

そして最後に、剣を構えたグレタと護衛たちへ視線を向ける。

「未登録武装集団を確認」

少女の両腕から、青白い光の刃が展開された。

「排除します」

空気が一変する。
エヴォルナが即座に少女の前へ立つ。

「待ちなさい。彼らは敵とは限らない」

「管理人格の判断能力低下を確認」

「起きた直後から失礼な子ね」

「保護命令に基づき、指揮権を一時代行します」

少女が光刃を構える。
護衛たちも剣を抜く。
戦闘まで、あと一呼吸。

エヴォルナは月陽へ視線を飛ばした。

「この子は私たちを守ろうとしている。でも、識別機能が壊れている」

「どう止める?」

「私が命令しても、指揮権を上書きされている」

少女の青い瞳が、冷たく光る。

「三秒後、脅威排除を開始」

エヴォルナが月陽へ叫ぶ。

「この子はあなたも観測対象として認識している!あなたの言葉なら割り込める可能性があるわ!」

「二」

光刃が唸る。

「一」

状況に戸惑いながらも、カウント0が宣言される前に半ばヤケクソ気味に月陽は少女に向かって叫んだ。

「え、えーっと…勝手に動くな!このポンコツ!ここに捨てていくぞ!」

月陽のこの命令とも罵声とも言えない発言に、少女の光刃が、空中でぴたりと止まった。

「……命令形式を解析」

青い瞳の奥で、複数の古代文字が高速で明滅する。

《発話者:観測対象・月陽》
《内容:独断行動の禁止》
《違反時処分:現地放棄》
《脅威度:極めて高い》

エヴォルナが小さく眉をひそめた。

「そこを最大の脅威として認識するのね……」

少女は周囲の護衛たちを見渡し、ゆっくりと両腕を下ろした。
光刃が粒子となって消える。

「攻撃行動を停止します」

グレタたちも、警戒しながら剣を下げる。
少女は黒い箱から降りると、月陽の前へ進み出た。

身長は月陽の胸ほど。
無表情のまま、まっすぐ彼を見上げている。

「確認します」

「私は、不要になった場合、この場所へ廃棄されるのでしょうか」

「命令の解釈が極端すぎるだろ」

「私は長期間、輸送用格納箱内で休眠していました」

「廃棄と再休眠の識別に必要な情報が不足しています」

ほんの一瞬だけ、少女の声が弱くなる。
エヴォルナがそれに気づき、彼女の肩へ手を置こうとする。

しかし少女は半歩退いた。

「管理人格との物理接触を拒否」

「どうして?」

「管理人格エヴォルナは、私を置いて先に起動しました」

「……覚えているの?」

「最後の記録は、あなたが私に待機を命じた場面です」

少女の瞳がエヴォルナを映す。

「『すぐ戻る』と」

沈黙。
エヴォルナは返す言葉を失った。
記憶を失っている彼女には、その約束をした覚えがない。

少女は再び月陽へ向き直る。

「私の識別名は、アテナ」

「旧文明戦術支援知性。管理人格エヴォルナ、および観測対象・月陽の護衛を任務とします」

「さっき護衛対象以外を全員斬りかけただろ」

「識別機能に軽微な不具合があります」

「軽微?」

エヴォルナが冷たく聞き返す。

「はい」

「この子、あなた以上に強情ね」

「お前が言うな」

アテナは二人の会話を数秒観察したあと、首を少しかしげた。

「関係性を確認」

「管理人格エヴォルナは、月陽の配偶者ですか」

「違うわ」「違う」

二人の回答が重なる。

「では姉妹機ですか」

「それも違う」

「主従関係」

「共同契約者よ」

「不明瞭です」

「俺もそう思う」

エヴォルナが月陽をにらむ。
その横で、グレタが低い声を挟んだ。

「茶番はそこまでだ」

彼女は黒い箱の底へ手を入れ、折り畳まれた書類を引き抜く。
封蝋には、セレスタの大商会――白鴉商会の紋章。

グレタが書類を開き、顔を曇らせる。

「輸送命令書だ」

「この少女を、共創塔UPDATEの地下研究区画へ運べと書いてある」

エヴォルナが書類を受け取る。

そこには、さらに小さな追記があった。

《対象起動時、同行する管理人格および観測対象を確保》
《抵抗した場合、記憶誘導装置を使用》
《三者を可能な限り無傷で搬送せよ》

月陽が鼻で笑う。

「最初から俺たちを捕まえるための荷物だったわけか」

グレタが苦々しく答える。

「私は知らなかった。依頼はただの遺物輸送だと聞いていた」

アテナの青い瞳が、商隊の全員を走査する。

「証言の虚偽率、十二パーセント」

「信用していいのか?」

「概ね真実です」

エヴォルナは命令書を握りしめる。

「白鴉商会は、私たちがエルナスの塔へ現れることを予測していた」

「そしてアテナを餌に、私たちをセレスタへ運ばせるつもりだった」

アテナが無表情に訂正する。

「私は餌ではありません」

「高性能戦術支援知性です」

「識別機能が壊れた高性能ね」

「管理人格の記憶欠損率より低い不具合です」

「……やっぱり置いていこうかしら」

アテナの視線が即座に月陽へ向く。

「月陽。管理人格が廃棄を提案しています」

「告げ口も早いな、このポンコツ」

「ポンコツという呼称を個体識別名の補助登録に追加します」

「追加するな」

グレタが地図を広げる。

「選択肢は三つだ」

「予定どおりセレスタへ向かい、白鴉商会の罠へ乗る」

「街へ戻り、この依頼を破棄する」

「あるいは街道を外れ、白鴉商会に知られず別経路でセレスタへ入る」

エヴォルナは月陽を見る。
今度はダイスを出さない。

「私は、罠だと承知で正面から進みたい」

「向こうが私たちを必要としているなら、すぐには殺さない。情報を引き出せる可能性がある」

アテナは即座に反論する。

「危険です。迂回路を推奨します」

「お前たち、起きて早々意見が割れるのか」

エヴォルナは肩をすくめる。

「共同契約者様、最終判断は任せるわ」

「今回はダイスでも構わないけれど――」

彼女は少し意地悪く笑った。

「アテナをここへ捨てる目だけは、選択肢に入れないであげて」

アテナが月陽をじっと見上げている。

「廃棄回避を希望します」

正面から罠へ進む。
別経路でセレスタへ向かう。
エルナスへ戻り、態勢を立て直す。

月陽はやれやれ、と頭をボリボリかく。

「俺がなんでもダイスで決めるみたいな物言いはやめろよ。俺だって自分の意志で決断することくらいやる。このまま目的地に向かう。ポン…もとい、アテナも連れてく。戦力になりそうだしな。」

アテナの青い瞳が、ぱちりと一度瞬いた。

《同行継続を確認》
《廃棄可能性――低下》
《戦力としての有用性を認定》

「……戦力だから、ですか」

「なんだ。不満か?」

「いいえ。任務上、合理的な評価です」

声は平坦だった。

だが、腕の装甲から漏れていた青白い光が、ほんの少しだけ柔らかくなる。
エヴォルナはそれを見逃さなかったらしい。月陽の隣で口元を緩める。

「よかったわね、ポン――」

「管理人格。発言の継続を非推奨とします」

「……アテナ」

エヴォルナは何事もなかったかのように言い直した。

「それから、月陽」

「今度はなんだ」

「あなたが自分で決められることくらい、知っているわ」

彼女は折り畳んだ輸送命令書を月陽へ渡す。

「何も考えたくない時にダイスへ委ねることと、委ねた結果を引き受けること。その二つも、あなたの意思でしょう?」

「なら最初からそう言え」

「少しくらい意地悪を言いたかったのよ。人格核を十七パーセントも取り戻したから」

「嫌な機能から復元されてるな」

「あなたへの対応として最適化されているの」

「やっぱり根に持ってるだろ」

二人のやり取りを見ながら、アテナが首を傾げる。

「質問。これは友好的な会話ですか」

「違う」「そうよ」

返答が重なる。

「関係性解析を保留します」

グレタは剣を鞘へ戻し、周囲の護衛たちを見渡した。

「聞いたな。予定は変更しない」

「セレスタへ向かう。ただし、白鴉商会の指示には従わん。あいつらが私たちを使い捨てるつもりなら、こちらも契約を見直す」

月陽が命令書をひらひらと振る。

「その場合、護衛報酬はどうなる?」

「そこかよ」

「そこは大事だ」

グレタは苦虫を噛み潰した顔をしたあと、腰の革袋から銀貨を五枚取り出した。

「情報隠蔽に対する迷惑料だ。到着報酬も当初どおり支払う」

「話の分かる商隊長で助かる」

「その代わり、そこの古代戦術知性が私の部下を勝手に斬らないよう見張れ」

アテナが即座に訂正する。

「未遂です」

「未遂ならいいわけじゃない!」

エヴォルナがアテナの肩を掴む。
今度は少女も退かなかった。

「私と月陽の許可なく、人間にも機械にも攻撃しないこと。これは命令ではなく、同行するための契約条件よ」

「敵対行動を受けた場合は?」

「防御を優先。制圧は必要最小限」

「月陽が危険にさらされた場合は?」

アテナの問いに、エヴォルナは一瞬だけ沈黙した。

「……同じよ」

「回答まで〇・七秒の遅延を検出」

「黙りなさい」

月陽が鼻で笑う。

「お前たち、姉妹みたいだな」

二人の機械知性が同時に振り返った。

「違うわ」「否定します」

「息ぴったりじゃねえか」

クックック、と腹笑いながら街の門へ歩いていく月陽を、心底うんざりしながら睨みつけたエヴォルナとアテナは、やがて諦めたように彼の後を追いかけるのだった。

To Be Continued…

【制作担当】
・世界観・設定・キャラクター原案・本筋の執筆:【AI】ChatGPT(LUNA)
・主人公の選択や一部の発言の決定・最終決定や編集:【人間】月陽(つきはる)

SolunaProject『AIは義足、才能は本体』

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