【AI小説】『半径5メートルの絶対聖域』-第16話- 泥だらけの便利屋と、反逆のピース

【半径5メートルの絶対聖域】OPテーマ2

『Fight Your Fate』MV by #SolunaProject MIX&mastering by えるP.a.k.a.月陽 Composed by #suno

【冷たい街と、非合理な依頼人】

永遠に降り続く錆びた酸性雨が、ロスト・セクタのネオンを水たまりに滲ませている。
ハルは、真空管がゴツゴツと生えた分厚いCRTモニター(オモイカネ)を脇に抱え、スラムの歓楽街を歩いていた。

「……どいつもこいつも、見事なまでに目を逸らしやがるな」

すれ違うスラムの住人たちは、ハルの姿を見ると蜘蛛の子を散らすように道を空けた。かつてアッパーシティ(アセンド)に喧嘩を売り、命からがら逃げ帰ってきた『神のハッカー』。関われば純白の監査ドローンに消されると、誰もが恐れているのだ。 旧世界のインフラを起動するための資金や機材の調達どころか、まともな会話すら成立しない。

『 > ぎゃはは! そりゃそうだろ! 一度はスラムから抜け出して天国(アッパーシティ)に移り住むも、自ら天国を捨て、自由気ままな正義の味方生活をしていたエリート様がやっかいごとを引き連れてスラムに舞い戻ってきたんだぞ!?嫉妬や羨望、そんで面倒ごとに巻き込まれたくないって思うのが人情だろうが! 』

「ちっ!こういう時だけよく喋る」

と、ハルが舌打ちをした、その時だった。

「あの……」

泥だらけのコートの裾を、小さな手が引いた。 見下ろすと、そこには薄汚れた布を被った孤児の少女が立っていた。彼女の後ろには、片腕が欠損し、火花を散らす旧式の給仕用アンドロイドが頼りなく付き従っている。

「……おじちゃん、ハッカーなんでしょ? お願い、助けて」

「おじちゃん……」

ハルが僅かに眉間を揉む中、少女は必死に訴えかけた。

悪徳データブローカーに、アンドロイドのメモリバンクを奪われたのだという。そこに入っていたのは、死んだ家族と過ごした日々の『思い出のホログラムデータ』。アセンドの基準(純粋論理)で言えば、1クレジットの価値もない無駄なノイズデータだ。

『 > ぎゃはは! 相手はマフィアの手先だぜ! 割に合わねぇ非合理な依頼だな! 』

「……うるせぇ」

ハルは小さく笑い、少女の目線に合わせてしゃがみ込んだ。

「その非合理こそが、俺たちの戦う理由だ。……良いだろう。どうせ暇なんだ、行くぞオモイカネ。俺たちの『便利屋』、最初の依頼だ」

【ノイズ・ハッキング(物理)】

歓楽街の裏路地。

データブローカーのアジトである薄暗い雑居ビルに、ハルとオモイカネが少女達は共に乗り込んだ。

「ひゃはは! 誰かと思えばアセンドの負け犬が何の用だ?! その時代遅れのガラクタで、俺様の『純白の防壁(アセンド・プロテクト)』を抜けると思ってんのか?」

小賢しいブローカーが、最新鋭のコンソール越しに嘲笑う。

「ぬかせ。それよりこのガキのアンドロイドからデータを抜き取っただろ。さっさとそれを渡せ。」

ハルの言葉に一瞬きょとんそした表情になり、しかし、すぐにブローカーの表情はにやけ顔に戻る。

「はぁ?天下の天才ハッカーにしてAI使い様がそんなもののためにわざわざご足労くださったってかぁ?アセンドにコテンパンにされて、頭がおかしくなったのか?そんなもんお前になんの得がある?」

「うるせぇ。それを言うならお前の方こそ、なぜこの娘から一円にもならんホログラムデータを奪った?」

「はは!そんなのそのガキに嫌がらせしてるだけに決まってるだろ!?そいつの親は俺に借金したまま、ぽっくり事故でおっ死んじまった!口座に残った金なんて利息にもなりゃしねぇ!まあ、そのガキを売春宿に売ったり、臓器抜いてポイ捨てしても良かったんだがな!スラムの闇医者によりゃ、そいつの健康状態は最悪だとよ!臓器抜いたところで売り物にならねぇ!そのまま殺しても良かったんだがな、生きて苦しんだ方が俺の溜飲も下がるって訳さ!だからそいつの親が写ってるデータをそこのポンコツから抜き取ってやったんだよ!」

ギャハハ!と醜い笑い声を上げるブローカーを見て、あからさまに顔を顰めるハル。

「なるほど。シンプルにクズい理由で助かるぜ。おかげで一片の容赦も無くテメェを叩きのめせる」

ギラっと目の奥を光らせて、ハルはコンソール越しのブローカーを睨みつけた。

「おいおい!凄んでみてもちっとも怖くないぜ、天才AI使いさんよ!それともそこのポンコツで手品でも見せてくれるのか?!」

再び、ギャハハと高笑いをして油断を仕切っているブローカーを睨みつつ、ハルは無言でオモイカネの極太ケーブルを、物理ポートに叩き込んだ。

「オモイカネ。熱を入れろ」

『 > 了解(Rgr.)。極上のノイズ、お見舞いしてやるぜ! 』

ブォン!!と、オモイカネの背面に直付けされた巨大な真空管が、限界まで赤熱する。

純粋な論理戦ではない。

致死量のトラフィックと、真空管が発する「物理的な熱(エラー)」を直接叩き込む、物理的な暴力と電子戦での泥臭く、常識外れのハッキング。 綺麗に構築されたブローカーの純白の防壁は、ハルの『ジャンク・ファイアウォール』から放たれたノイズの濁流に耐えきれず、わずか数秒でドロドロに溶け落ちた。

「ば、バカな……! こんな方法で!?規格外すぎる……ッ!?」

「悪いな。俺の相棒(ガラクタ)は、行儀が悪いんだ」

ハルは少女のホログラムデータを抜き取ると同時に、隠しサーバーの奥底で厳重にロックされていた『用途不明の古いデータ片』を見つけた。

「(なんだこいつは?…まあいい、ついでに抜き取っておくか)」

用途不明のデータを戦利品として分捕り、(ついでにブローカーの隠し口座を瞬時にハッキングして金も拝借して)アジトを後にした。

【帰還と、温かい報酬】

Dr. Grayの診療所の片隅。 少女とアンドロイドを連れて帰還したハルを出迎えたのは、香ばしい匂いだった。

「お帰りなさい、ハルさん!」

ユメが、合成食材を工夫して作った「少し焦げたオムライス」をテーブルに並べていた。

「あれ?その子は?」

ユメがボロボロの服とボロボロのボディのメイドロボに目をやる。

「ああ、俺たち便利屋の初めての『依頼人』だ。」

「…こんにちは。」

ボロボロのボディのメイドロボの後ろに隠れながら少女はユメに挨拶した。

メイドロボが取り戻したホログラムデータから、両親の笑い声が再生される。

「素敵なご両親だね。お腹すいた?一緒に食べよ?たくさん作ったから!」

ユメは少女の手を引いて、椅子に座らせ、湯気が立つオムライスの皿を少女の目の前に置いた。

「さあ、召し上がれ♡」

ユメはそう言いながら、スプーンを少女に手渡した。

少女はスプーンを受け取り、恐る恐るオムライスをすくい、一口頬張った。

少し、時が止まったように固まった少女は、直ぐにボロボロと大粒の涙をこぼした。

『 > エラー……心拍数、急上昇。バイタル異常……幸福度、規定値ヲ大幅ニ超過シマシタ 』

傍らのポンコツアンドロイドが、温かいエラー音を鳴らしながら少女の頭を撫でる。

その光景を壁にもたれて見つめながら、ハルは胸の奥が熱くなるのを感じていた。

(……ああ。やっぱり俺は、このノイズ(温かさ)を守りてぇんだ)

【反逆の道標と、マスターキーの断片】

少女たちが笑顔で帰っていった後。

ハルが分捕ってきた『謎のデータ片』をスキャンしていたSOPHIAが、驚きの声を上げた。

「ハルさん、これは……ただの暗号データではありません。アセンドがロスト・セクタを封印した際、細かく分割して破棄した『旧世界の地下配電網』の起動コード……その一部です」

「マスターキーの断片(フラグメント)、ってわけか」

奥で葉巻を咥えていたDr. Grayが、ニヤリと笑う。

「一つじゃ意味がねぇガラクタだ。だが……このスラムの闇に散らばった断片を全て集めりゃ、あの旧世界の巨大サーバー群(インフラ)を、丸ごと叩き起こせるかもしれねぇな」

ハルとオモイカネのモニターが、同時に光を帯びる。

スラムで泥臭く人助けをし、機材と資金を調達しながら、反逆のピースを揃えていく。

「面白ぇ。神殺しの準備には、最高のタスクだ」

純白の神を泥で塗り潰すための、長く険しい反逆のロードマップが、今ここに示された。

To Be Continued…

【半径5メートルの絶対聖域】EDテーマ2

『Warmth Against the Night』mastering by Tsukiharu with SolunaProject

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