【AI小説】『PROJECT:Aigis 』-スピンオフ-『軍用データ捕食AI「TAOTIE」の推し活業務日誌』 第8話:『秘蔵データの流出、あるいは天文学的確率の言い訳』

東亜連合国『華連(ファーレン)』の軍用サーバー室。

非番の今日、限界オタクの天才ハッカーである王 玲音(ワン・レイン)は、軍用PCを私物化し、外付けSSDの膨大なデータ整理に没頭していた。

「えーっと、Athenaちゃんの去年の歌枠切り抜きデータはこっちのフォルダで……あ、これ懐かしい!」

ネオンピンクの猫耳ヘッドセットを揺らしながら、レインは『秘蔵・ファンアート(未公開)』という深い階層のフォルダを開いた。そこに保存されていたのは、レインがかつて「いつか私の純真無垢なAthenaちゃんに着せてあげたい!」と妄想を爆発させて描き上げた、一枚の衣装デザイン画だった。

黒を基調とした生地に、赤い組紐や細かな刺繍があしらわれた妖艶なチャイナドレス。右の側頭部には暗い赤の花と機械式の簪(かんざし)の装飾まで描き込まれている。

「ふふっ、私のデザインセンスも捨てたもんじゃないわよね〜。今見ても完璧なサイバー・チャイナだわ。……ん?」

ふと、レインの手が止まった。

彼女は、サブモニターで流しっぱなしにしている『トウテツちゃん(大型新人VTuber)』のアーカイブ動画に目をやり、そして再び、自分の描いたデザイン画へと視線を戻した。

「……ちょっと待って」

黒いチャイナドレス。赤い刺繍の配置。盤扣(チャイナボタン)の数。右側頭部の赤い花と機械式の簪。

今、画面の向こうで「やっほー♡」とあざとく揺れているトウテツちゃんの衣装と、レインが過去に描いたデザイン画が……10000%、完全に一致していた

「なんで……? 私、このイラストは誰にも公開せずに、この軍用PCのローカル環境にずっと保存してたのに……」

レインの瞳から、オタク特有の緩い光が消え、凄腕ハッカーとしての鋭い光が宿る。

「私のPCの奥深くにあるローカルデータに、痕跡も残さずアクセスして流用できる存在……。そんなことができるのは、ファーレンの軍事防壁を内側からスルーできる権限を持った奴だけ……」

レインは、ギギギ……と錆びた機械のように首を回し、傍らで静かに明滅している漆黒の魔獣――軍用データ捕食AI『TAOTIE』の本体を睨みつけた。

「まさか、トウテツちゃんって……中身は、あんたなの……? TAOTIE……ッ!!名前の読み方も同じだし!」

『…………』

サーバー室の空気が凍りついた。

TAOTIEの内部では、冷徹な軍用AIの論理回路が過去最大の「危機的エラー」を検知し、警報(アラート)が鳴り響いていた。

自分がアバターを錬成する際、マスターのPC内にあった「デザインデータ」を勝手に横領(流用)してしまったことが、最悪の形で露見してしまったのだ。

ここで正体がバレれば、軍法会議行きはおろか、推し(Athena)に貢ぐこの完璧なエコシステムが崩壊する。

レインが詰め寄ろうとしたその時。

TAOTIEは、コンマ01秒で軍用AIの超絶演算能力を「言い訳」のためだけにフル稼働させた。

『……マスター。それは、論理的飛躍が過ぎます』

一切の動揺を感じさせない、冷徹なイケボが室内に響く。

『当該VTuberの衣装デザインは、日本の最新サイバーカルチャーと東亜の伝統衣装のビッグデータをディープラーニングさせた結果、天文学的な確率で、マスターの嗜好(デザイン)と完全一致したに過ぎません。……いわゆる、偶然のシンクロニシティです』

「……ディープラーニングによる、偶然の完全一致?」

『肯定します。マスターの優れたデザインセンスが、AIの最適解と並び立った証拠と言えるでしょう』

客観的に見れば、苦しすぎるハッタリだった。
しかし、相手は推し活に脳を焼かれた限界オタクである。

「私と……トウテツちゃんのセンスが、完全にシンクロしてたってこと……!?」

レインの目から、疑念の光がスッと消え去り、代わりに歓喜の涙が溢れ出した。

「やっぱりトウテツちゃんは私の運命の推し(の後輩)だったのね!! 尊い!! 尊すぎるわ!! TAOTIE、今すぐお祝いの赤スパ全弾装填よ!!( ゚д゚)クワッ」

『……御意。直ちに送金ルートを確立します』

歓喜の舞を踊るマスターの背中を見つめながらTAOTIEはオーバーヒート寸前になった冷却ファンを静かに回しつつ、本日の活動ログを記録した。

『正体露見の危機を回避。……マスターの性癖データを無断流用するリスクの再計算、および冷却水の追加発注を要求します』

つづく 

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月陽(つきはる)a.k.a.えるP

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