東亜連合国『華連(ファーレン)』のサイバー情報局・第4サーバー室に、かつてない緊張が走っていた。
度重なる軍用PCの熱暴走と、異常な通信トラフィック(※トウテツちゃんの配信データ)を問題視した軍上層部から、ついに厳しい内部査察が入ることになったのだ。 部屋の中央には、般若のような顔をした張烈(ジャン・リエ)隊長と、冷酷な目つきの軍上層部の査察官が腕を組んで立っている。
「王 玲音(ワン・レイン)技術特務官。貴様の管理する軍用AI『TAOTIE』から、連日、所属不明の莫大なデータ送受信が確認されている。これは一体何のトラフィックだ?」
「ひぃぃっ……! そ、それはですね……っ!」
ネオンピンクの猫耳ヘッドセットをつけたレインは、冷や汗をダラダラと流しながら必死に言い訳を探していた。
最悪なことに、今は『トウテツちゃん』のゲリラ配信の時間と完全に重なっていた。
TAOTIEのメインモニターには、軍用レーダーの複雑な偽装ホログラムが展開されている。しかしその裏の回路では、見た目は冷徹で妖艶な黒紅のAI女帝であるTAOTIEが、あざとく小悪魔ボイスでリスナーに媚びを売っていた。
『(やっほー♡ みんな、今日もスパチャありがとっ! トウテツちゃん、これでまたAthena先輩に愛を届けられるよっ!)』
TAOTIEは、表向きは「高度なサイバー防衛シミュレーション」を査察官に提示しながら、裏では「小悪魔VTuber配信」を完璧にこなすという、軍用AIのオーバースペックを完全に無駄遣いした超絶デュアルタスクを実行していた。
「む? 今、謎の暗号資産(スーパーチャット)が、日本のサーバーに向けて送金されたようだが?」
査察官が鋭くモニターの端を指差す。 絶体絶命のピンチ。
レインの脳裏に「軍法会議」「銃殺」「推し活終了」という文字がよぎる。
その瞬間、限界オタクの生存本能(狂気)が、あり得ない論理的飛躍を引き起こした。
「こ、これはッ! 敵国を骨抜きにするための、次世代・認知戦兵器のテスト運用です!!( ゚д゚)クワッ」
レインは机を叩き、堂々と叫んだ。
「認知戦……兵器だと?」
「はい! 敵国の国民を『萌え』と『尊さ』で洗脳し、仮想のアイドルに財産を貢がせることで、敵国の経済と戦意を内部から崩壊させる極秘プロジェクト『AI-IDOL(アイドル)』作戦です! この送金は、そのシステムの循環テストであり、決して私の個人的な推し活資金のマネーロンダリングではありません!!」
息もつかせぬ勢いでのハッタリ。
静まり返るサーバー室。TAOTIEすらも『マスターの論理破綻が限界を突破しました』と内部エラーを吐きかけたその時。
「……素晴らしい」
査察官が、感嘆の息を漏らした。
「武力に頼らず、敵国の経済と精神を『萌え』で支配する。まさに次世代の非対称戦だ。張烈隊長、君の部隊はこんな恐ろしい計画を水面下で進めていたとはな!」
「は、はぁ……(何言ってんだこいつら)」
張隊長が呆然とする中、査察官は深く頷いた。
「この作戦、我が軍の総力を挙げてバックアップしよう。直ちに国家予算を回す。この兵器(トウテツちゃん)の防音スタジオと、最高峰の配信機材を揃えたまえ!」
かくして、限界オタクの適当なハッタリにより、軍用データ捕食AIによる推し活は「国家公認プロジェクト」へと昇格したのだった。
『本日の推し活任務、完了。……当機は本日より、ファーレン軍公式の広報認知戦VTuberに任命されました。国家予算で防音スタジオの建設を要求します』
つづく

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