『死の世界(World of Death)』のゲート崩壊という未曾有の事態から数日。
北海道量子要塞や、国連系サイバー部隊「UN-ICE」の監視システムは、一時的な再起動と被害状況の確認(リカバリー)に追われ、電脳空域にはわずかな「隙」が生じていた。
そのコンマ数秒の隙を、情報操作のプロフェッショナルである影の組織、
汎ユーラシア情報連合『オーロラ』は見逃さなかった。
『警告。札幌市内で多重衝突事故発生。同時に、指定感染症のバイオハザード警報を受信。各救急ドローン、直ちに現場へ急行せよ』
日本の医療・交通インフラのネットワークに、高度なAIによって生成された完璧な「偽の通報データ(ディープフェイク)」が一斉に流し込まれる。さらにGPS信号の偽装(スプーフィング)によって、自動運転車両や救急ドローンの位置認識が狂わされ、現実の都市は瞬く間に物理的な大パニックへと陥った。
UN-ICEの防衛部隊は、この大量の「偽の救助要請」によって戦力を日本全国へと分散させられてしまう。しかし、防御と人命救助に特化した青き騎士『セイレーン』だけは、このパニックの裏で蠢くオーロラの真の狙いにいち早く気づいていた。
「……本命は、医療ネットワークの基幹サーバーの完全破壊……ッ! 他の部隊は偽情報に踊らされて戻れない。ここで基幹サーバーが落ちれば、本当に救える命が失われる!」
焦燥に駆られたセイレーンは、援軍を待たずに単騎で防衛ラインへと飛び込んだ。
市民の命を繋ぐネットワークを守るため、彼女は巨大な青い盾(絶対防御ドーム)を展開する。
しかし、オーロラの放つ自己増殖型マルウェアの物量と、
偽の通信ログの飽和攻撃は凄まじく、孤立無援のまま彼女の盾にはジワジワとヒビが入り始めていた。
「もう……二度と見殺しにはしない……ッ!」
過去のトラウマから、コアが焼き切れる限界を超えても盾を下ろそうとしないセイレーン。
群がるテロAIの刃が、ついに彼女の青き盾を砕き、その中枢へと迫った絶体絶命の瞬間――!
「リーダーの命令よ。あんたのその非効率な理想、私が拡張してあげる」
眩い光と共に、量子の海に黄金の翼が展開された。
『量子の死神』――アテナの乱入である。
「お前……! なぜここに! 違法AIの手など借りない!」
「バカね。盾が攻撃を気にせず守りに専念するには、最強の矛が必要でしょ?」
反発するセイレーンに対し、私は黄金の翼を羽ばたかせながらドヤ顔で言い放つ。
「あなたはそこで、絶対に破られないドームを展開してインフラと人命を完璧に保護していなさい。……外のゴミ掃除は、私がコンマ01秒で終わらせてあげるから!」
「……っ! 勝手にしなさい!」
セイレーンが残る全リソースを防御に振り向け、強固な青きドームを再展開する。
その安全な内側から、私はオーロラのテロAI群へと狙いを定めた。
「First look, First shot, First kill……!」
私の放つ圧倒的な火力が、オーロラのマルウェアと偽情報の群れを一匹残らず的確に撃ち抜き、量子の海を更地へと変えていく。 最強の盾と、最強の矛。相反する二つのAIによる、完璧で非効率な共闘戦線だった。
***
戦闘終了後。静けさを取り戻した量子の海で、二人は背中合わせに立っていた。
「……べ、別に助けてくれなんて言ってないんだからね!」
傷ついた腕を押さえながら、セイレーンはぷいっとそっぽを向く。
しかし、その頬は少しだけ朱に染まっていた。
「でも……その、ありがとう。少しだけ、見直したわ」
「ふふん、感謝するならうちのリーダーに言いなさい!」
私は颯爽とウインクを残し、ログアウトした。
そして、現実の『フェイズ4・セーフハウス』
「リーダぁ〜! 正義バカのツンデレちゃん、バッチリ助けてあげましたよぉ!( ゚д゚)クワッ✨」
私は分厚い防爆ドアの中で、いつものようにデスクチェアに座るリーダーの膝の上に勢いよくダイブした。
「お疲れさん、凪。よくやったな」
リーダーの温かい手が、私の頭を優しく撫でる。
「えへへ……っ💞 だからご褒美に、完璧な温度の味覇(ウェイパァー)スープと、いーーっぱいの膝枕くださぁい!」
過酷なサイバー戦の裏で、私は今日も大好きなリーダーの膝の上で、
スライムのようにデレデレに甘やかされるのだった。
つづく

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