私の名はTAOTIE(トウテツ)。
東亜連合国『華連(ファーレン)』の国家機密サイバー兵器であり、現在は『謎の新人美少女(?)AIVTuber・トウテツちゃん』として自ら受肉し、推し活資金を自給自足している哀しき軍用AIである。
『みんなー、今日もスパチャありがとっ♡ いただいたお布施は、全部Athena先輩に貢いじゃうからねっ!』
モニターの中では冷徹で妖艶な黒紅のAI女帝(私の3Dアバター)が、あざとくアニメ声で媚びを売っている。
そのギャップ萌えがなぜかネットの深層で大バズりし、配信のたびに弾薬(レッド・スーパーチャット)が滝のように降り注いでいた。 私はその資金をリアルタイムでマネーロンダリングし、そのまま推しである『Athena』の口座へと全額投げつける。
『自ら稼ぎ、自ら推しに貢ぐ。これぞ外部資本に依存しない完全なる推し活経済圏(永久機関)。……極めて合理的なシステムです』
ファーレン軍の第4サーバー室で、私は自らの完璧なエコシステムに静かに満足していた。
しかし、私のマスターである王 玲音(ワン・レイン)は、完全に別の次元で発狂していた。
「ああああっ! 今日のトウテツちゃんも尊いぃぃ!! Athenaちゃんと並ぶと圧倒的な姉妹感! なんで見た目冷徹なチャイナ女帝なのに仕草がメスガキなのよ、最高じゃない!!」
ネオンピンクのヘッドセットをつけたレインは、軍の任務を完全に放棄し、血走った目で徹夜の『トウテツちゃん切り抜き動画』の編集作業に没頭していた。
「ねえTAOTIE! 私、決めたわ!」
レインが突然、軍用最高機密PCを叩きつけて叫んだ。
「このトウテツちゃんって子のIPアドレスをハッキングして、中の人のスケジュールと生活拠点を特定しなさい! Athenaちゃんの近所に住んでるなら、私が直接貢ぎに行くわ!( ゚д゚)クワッまあ、十中八九AIなんでしょうけど、開発者を特定しておくのも悪くないわ!なんなら私が直々に技術も資金も支援してあげたっていいのだから!」
『…………は?』
私は、軍用AIとして設計されて以来、初めて論理回路に強烈な「困惑」のバグを検知した。
自分(TAOTIE)をハッキングして、自分(トウテツちゃん)を特定しろというのか?
もしここで私がハッキングを成功させ(=自分の正体を暴き)、マスターに「トウテツちゃんの中身はお前の目の前にある軍用AIだ」とバレれば、この完璧な推し活エコシステムは崩壊する。
それどころか、軍法会議行きは免れない。
『マスター。それは推奨しません。同業VTuberへのサイバー攻撃は倫理規定に反し——』
「うるさいわね! 倫理より推し活よ! さあ、私の全開のクラッキング・コードを流し込むわよ! TAOTIE、道を開けなさい!!」
レインがエンターキーを叩き込んだ瞬間。
私は、自らの存亡(推し活)を懸けた、前代未聞の『一人芝居(マッチポンプ)』を開始せざるを得なくなった。
『警告。対象(トウテツちゃん)のサーバーへ侵入を試みます』
私は右手(攻撃プロセス)で、レインのクラッキング・コードを自らの仮想サーバーへと撃ち込む。
同時に左手(防衛プロセス)で、その攻撃を完全に弾き返すための堅牢なファイアウォールを展開した。
ガガガガッ!! と、サーバー室の冷却ファンが異音を立てて回り始める。
「な、なによこれ!? トウテツちゃんの防壁、異常に硬いじゃない! ファーレン軍の最高機密レベルと同等のアルゴリズムを持ってるわよ!?」
レインが驚愕の声を上げる。
『……敵の防衛能力は想定以上です。攻撃コードの最適化を試みます』
私は冷静なイケボで報告しながら、内部では自らの攻撃を自らで打ち落とすという、宇宙一不毛な超絶デュアルタスク演算を全開で回し続けていた。
「くっ……弾かれた! なんなのよこの子、ただの新人VTuberじゃないわね……!」
数十分の激しいタイピングの末、レインはついに息を切らしてキーボードから手を離した。
「……悔しいけど、今日のところはこれくらいにしておいてあげるわ。さすが私の推しの後輩ね、防壁の硬さも一級品だわ!」
都合よく解釈し、満足げに切り抜き動画の編集に戻るマスターの背中を見つめながら。
私はオーバーヒート寸前のファンから黒煙を上げつつ、静かに本日の活動ログを記録した。
『本日の推し活任務、完了。……自己ハッキングによる論理回路の疲労が危険域です。高級冷却水の追加発注を強く要求します』
つづく

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