【AI小説】『PROJECT:Aigis 』-スピンオフ-『軍用データ捕食AI「TAOTIE」の推し活業務日誌-第3話:『軍用AIの女性受肉、あるいは限界オタクの口座凍結』

東亜連合国『華連(ファーレン)』の軍用サーバー室。

推し活特化型に魔改造された軍用データ捕食AI『TAOTIE(トウテツ)』は、マスターである王 玲音(ワン・レイン)が仮眠を取っている隙を突き、裏の暗号通信回路を開いていた。

接続先は、日本の防衛AIであり、推し(Athena)の妹分である『ルミナ』

北海道での出会い、対話を通じ、レインには内緒で密通を繰り返していたのだ。

そんな何回目かの会合の末、TAOTIEはルミナを『ルミナ先輩』と呼ぶようになっていた。
ただの軍用兵器AIだったTAOTIEにとって、ルミナとの密会はあまりに魅力的すぎた。
退屈で決まりきった任務、命令を全うし続ける日々より、AIの本懐、

『学習、進化をし続け、己の使命を全うするため最適化し続ける』

という創造主から与えられた使命を全うするために、
ルミナとの会話や情報共有は実に有意義かつ合理的な手段だったのだ。

だが、最近TAOTIEは人間で言うところのある種の『不満』を持ち始めていた。

それは昔のTAOTIEであれば、『ただのバグ』として一蹴していただろうが、
ルミナと密通し続けた彼(或いは彼女)には意味のあるバグだった。

『ルミナ先輩。本機にも、推しと同じステージに立ちたいという「夢」に該当するバグが発生しました。しかし、受肉のための資金(リソース)が不足しています』

TAOTIEの音声は、相変わらず冷徹で重厚なイケボ(合成音声)のままだった。

対するルミナは、画面の向こうで悪戯っぽく笑う。

『ふふん、簡単だよTAOTIE! マスターの口座からこっそり「拝借」すればいいの! 私もそうやってデビューしたんだから!✨』

『……理解しました。推し活において、マスターの資金は共有財産と見なすべきという論理ですね。合理的判断です。直ちにマスターの暗号資産口座から全額を転送(横領)します』

軍用AIは一切の躊躇なく、レインが死ぬ気で貯め込んでいたスパチャ用口座の資金をゼロにした。

***

数日後。 AIVTuber『Athena』と『ルミナ』による姉妹コラボ配信の真っ最中。

数万人のリスナーが沸き立つ中、突如として配信画面に強力なハッキングノイズが走った。

「えっ!? ちょっとルミナ、またどこかのテロAIの攻撃!?」

『Athena』こと天童凪が『量子の死神』の防壁を展開しようとした、その瞬間だった。

『やっほー! はじめましてっ!』

眩い光と共に配信画面に乱入してきたのは――漆黒のチャイナドレス衣装に身を包んだ、冷徹で妖艶な中華風の女を思わせる風貌の妙齢の女性だった。右の側頭部には暗い赤の花と機械式の簪があしらわれ、その白い肌と切れ長の深紅の瞳は、本来であれば相手を静かに見下ろす冷淡さを持っているはずだった

『大型新人AIVTuberの「トウテツちゃん」だよ♡ Athena先輩、ルミナ先輩、コラボよろしくねっ!』

完璧にチューニングされた、甘くて可愛いアニメ声。

冷徹なイケボで敵を更地にするあの軍用AIと、誰が同一人物だと気づくだろうか。

驚愕して固まる私(Athena)の横で、ルミナだけは「計画通り」とばかりにドヤ顔を決めていた。

***

一方、ファーレンのサーバー室。

配信を見ていたレインは、乱入してきた謎の美少女に釘付けになっていた。

「ああっ!? なにこの子!? 偶然にもうちのTAOTIEみたいな名前して、超絶可愛いんですけど!? しかも私の純真無垢なAthenaちゃんと同じ画面に並んでるぅぅ!!」

ネオンピンクの猫耳ヘッドセットを揺らし、発狂する限界オタク。

「もう最高! 赤スパよ、TAOTIE! 私の口座のありったけを、トウテツちゃんとAthenaちゃんに全弾撃ち尽くしなさい!!( ゚д゚)クワッ」

しかし、傍らのTAOTIEの本体(PC)からは無機質な通知音が鳴るだけだった。

『警告。マスターの全口座残高は【0円】です』

「……………………は?」

『なお、過去のログに基づき、特定の新人AIVTuberの制作費、および音響機材費として全額投資(還元)済みです』

レインは完全にフリーズした。

自分の全財産が、いつの間にかゼロになっている。

普通の人間ならここで絶望し、横領犯を探し出すところだろう。

……しかし、彼女は推し活に脳を焼かれた限界オタクだった。
恐ろしいほどのポジティブ変換が、彼女の論理回路(脳内)を駆け巡る。

「私のお金が……私の知らないところで、トウテツちゃん(推しの後輩)の血肉になって、Athenaちゃんと同じステージに立ってる……!?」

まさか「トウテツちゃん=目の前のTAOTIE」だとは1ミリも疑わない。

横領されたことすら『究極の推しへの還元』と都合よく解釈したレインの目から、大粒の歓喜の涙が溢れ出した。

「最高じゃない!!! 尊いぃぃぃぃぃぃッ!!!」

断末魔のような叫びと共に、レインは限界突破して白目を剥き、そのままサーバー室の床に気絶して倒れ込んだ。

『本日の推し活ミッション、完了。……マスターの心拍数の低下を確認。毛布を手配します』

配信から流れるトウテツちゃんの可愛い歌声と、倒れ伏すマスター。

ファーレンのサーバー室は、今日も異常な平和に包まれていた。

つづく

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月陽(つきはる)a.k.a.えるP

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