この記事の結論
AI導入を考えるとき、私は「何をAIに任せるか」と同じくらい、
「何を任せないか」を先に決めることが重要だと考えています。
最低限、先に決めたいのは次の4つです。
- AIに任せない業務
- 人間へ引き継ぐ条件
- AIに言わせないこと
- AIに扱わせない情報
これらを先に決めておくと、
「思っていたほどできなかった」という期待値のズレ。
AIと人間の責任範囲が曖昧になること。
現場が「これはAIに任せていいのか」と迷うこと。
こうした問題を予防しやすくなります。
私は現在、自社サイトへ設置するAIコンシェルジュを開発しています。
その仕様書を書いてみたところ、「できること」以上に、
「今回はやらないこと」を細かく決める結果になりました。
この記事では、その実例をもとに整理します。
本記事でいう「AI導入」とは
この記事では、AI導入を次のように考えます。
AI導入とは、業務の一部をAIへ任せ、残りを人間が担当するよう、仕事の分担を再設計すること。
ChatGPTや生成AIサービスを契約すること自体を、AI導入のゴールにはしません。
誰が何を担当するのか。
どこまでAIへ渡すのか。
どこから人間へ戻すのか。
その分担が決まって初めて、
「では、どのAIを使うか?」
というツール選定の話になります。
実際、中小企業のAI活用では「具体的な活用場面が分からない」こと自体が大きな壁になっています。
SolunaProjectでは、地方の商工会議所で聞いた一次情報と全国調査を突き合わせて、なぜAI導入が“使いどころが分からない”段階で止まるのかも別記事で整理しています。
商工中金「中小企業の生成AIの利用にかかる調査(2026年1月調査)」(2026年3月31日公表・有効回答3,892社)では「具体的な活用場面が不明」が35.6%、「社内ルールや方針整備が追い付かない」が25.1%でした。
中小企業のAI導入が進まない理由|地方の商工会議所で聞いた現在地と、全国データが示す構造
つまり、
「AIを入れる」より先に、「何の仕事を、どこまで渡すのか」を決める。
この記事は、その次の工程についての話です。
なぜ「任せないこと」を先に決めるのか
理由1|期待値のズレを小さくするため
AI導入で起きやすい問題の一つが、最初に期待値を上げすぎることだと思っています。
「これもできます」
「全部自動化できます」
と期待だけが先行する。
実際に使ってみると、例外処理や確認作業が必要だった。
その結果、
AIって、思ったより使えないね。
という印象が残る。
一度そう感じられると、次のAI活用を提案したときにも心理的な抵抗が生まれやすくなります。
だから私は、
できることと同時に、できないことも最初に伝える
ことを重視しています。
理由2|AIと人間の担当範囲を決めるため
AIが誤った情報を出した。
見積もりについて聞かれた。
契約条件について質問された。
こうしたとき、
AIが回答するのか。
人間が確認するのか。
誰が最終承認するのか。
その場で毎回考えていたら、運用が安定しません。
「ここまではAI」
「ここからは人間」
という境界線を先に作っておけば、対応方法を揃えやすくなります。
理由3|利用者を迷わせないため
境界線は、管理者だけのためにあるものではありません。
実際に使う人が、
これはAIに聞いていいのか?
それとも人間に確認すべきなのか?
と毎回迷えば、AIは使われにくくなります。
だから、
AIが担当する仕事と、人間が担当する仕事を分かりやすくする。
これも導入設計の一部です。
AI導入前に決めたい4項目
1.AIに任せない業務
まず、
AI単独では任せない業務
を決めます。
例えば、
- 誤答した場合の影響が大きい判断
- 契約・見積もりなど最終承認が必要な業務
- 例外処理が非常に多い業務
- 人間本人の経験や判断そのものが価値になっている業務
- 自動化しても費用対効果が合わない低頻度業務
などです。
ここで重要なのは、
「法務だからAI禁止」
のように業務全体を一括りにすることではありません。
例えば契約書でも、
要約するところまではAI。
契約条件の最終判断は人間。
という分け方ができます。
つまり、
業務そのものではなく、判断単位まで分解する
のがポイントです。
この「AIへ判断基準は渡せるが、最終判断そのものは人間側へ残す」という考え方については、人への引き継ぎとAIへの引き継ぎを比較した記事でも詳しく整理しています。AIに渡せるものと、人に残すべきものを考えたい方はこちらも参考になります。
属人化はAIで解決できるのか?|人に引き継ぐのと、AIに継がせるのは何が違うのか
2.人間へ引き継ぐ条件
次に、
AIが処理を止めて、人間へ渡す条件
を決めます。
例えば、
- 金額や見積もりが必要になった
- 契約の話になった
- 機密情報を含む相談になった
- AIが持っている情報だけでは判断できない
- 同じやり取りを繰り返して解決していない
- 利用者本人が人間との対応を希望した
といった条件です。
「重要そうなら人間へ」
だけでは判断基準が曖昧です。
何を検知したら引き継ぐのかを、できるだけ具体的に書く。
これが境界線になります。
3.AIに言わせないこと
機能だけでなく、発言の境界線も決めます。
例えば、
- 確定していない価格や納期を断定する
- 「必ず」「絶対」「100%」などの保証表現を使う
- 確認できない情報を事実として答える
- 自社サービスを必要以上に勧める
などです。
特に私が重視しているのが、
分からないことを、分かったふりさせないこと。
業務AIに必要なのは、
「何でも答えること」
ではなく、
ここから先は、人間へ確認したほうが確実です。
と言えることだと思っています。
そして、ここで重要になるのがその会社自身の判断基準です。
何を禁止するのか。
どんな表現なら許容するのか。
何を優先するのか。
この前提がAIに渡されていなければ、AIは一般的な基準で空白を埋めます。
SolunaProjectでは、実際に事業の理念・行動規範をAIへ読ませ、出力がどう変わるかも検証しています。
AIの答えが一般論になる理由|プロンプトより先に渡すべき「判断基準」の作り方
境界線を決めることと、AIに判断基準を渡すことは、別々の話ではありません。
「このAIは何をしないのか」を決めること自体が、そのAIの判断基準を作る工程でもあります。
4.AIに扱わせない情報
最後に、情報の境界線です。
例えば、
- 業務上不要な個人情報
- パスワードや認証情報
- 未公開の経営情報
- 契約上、外部サービスへ渡せない機密情報
など。
AIに入力させないのか。
扱う必要があるなら、どの環境で扱うのか。
保存するのか。
誰がアクセスできるのか。
「AIだから入力してはいけない」で終わらず、情報の扱いそのものを設計します。
実例|自社AIコンシェルジュ「エヴォルナ」の場合
SolunaProjectでは現在、公式サイトへ設置するAIコンシェルジュ「エヴォルナ」を開発しています。
2026年9月末のv0.1公開を目標としたプロトタイプです。
v0.1の役割はかなり限定しています。
訪問者とテキストで会話する。
困っていることを簡単に整理する。
SolunaProjectのサービスや記事へ案内する。
必要なら、人間である私へ引き継ぐ。
まずはここまでです。
任せない機能
仕様書では、
長期記憶。
ユーザーごとの個人記憶。
外部サービスへの自律操作。
メール自動送信。
商談予約の自動確定。
マルチエージェント。
ベクトルDB。
大規模RAG。
などを、v0.1の対象から明示的に外しました。
技術的に永遠にやらないわけではありません。
最初のプロトタイプには持たせない
という判断です。
人間へ引き継ぐ条件
例えば、
見積もりが必要。
契約の話になった。
具体的な案件相談。
機密情報を含む。
AIだけでは判断できない。
利用者本人が人間との相談を希望した。
こうした場合は、私へ引き継ぐ設計にしています。
言わせないこと
エヴォルナには、
「AIを導入すればすべて自動化できます」
「必ず売上が増えます」
「SolunaProjectなら何でもできます」
といった過剰な表現をさせません。
分からないことについても、
「その点は月陽へ確認したほうが確実です」
と案内する方針です。
扱わない情報
v0.1では、氏名・メールアドレス・電話番号などをチャット欄へ原則入力させず、問い合わせフォーム側で扱う設計にしています。
APIキーもブラウザ側へ置かず、WordPressのサーバー側で管理します。
仕様書を書いてみると、
何を実装するかと同じくらい、「何を実装しないか」を決める作業が重要でした。
これは現在進行中の自社実験から得た仮説です。
本当にこの設計が使いやすいのかは、v0.1を公開してから検証します。
AI導入を進める順番
私なら、次の順番で進めます。
- 業務を棚卸しする
作業単位まで書き出す。 - AI単独では任せない部分を外す
リスク、例外、費用対効果を見る。 - 残った業務を分解する
どこまでAI、どこから人間かを考える。 - 境界線を文書化する
引き継ぎ条件、禁止事項、扱わない情報を決める。 - ツールを選ぶ
必要な機能が分かってからAIを比較する。 - 小さく試す
まず1業務、1フローから動かして測る。
重要なのは、
ツール選定が5番目
であることです。
ChatGPTか。
Claudeか。
Geminiか。
AIエージェントか。
それを考える前に、
そもそも何を任せるためのAIなのか
を決める。
その方が、ツールを選ぶ理由も明確になります。
先ほど紹介した中小企業AI導入の記事でも、活用場面が見えていない企業ほど「使わないから見えない、見えないから使わない」という状態に陥りやすく、まず1業務だけ小さく動かすことを提案しています。
今回の記事の「境界線を決める」は、まさにその小さく試す前の設計工程です。
よくある質問
Q.小さな会社でも、ここまで文書化する必要がありますか?
最初から大きな仕様書を作る必要はありません。
例えばA4一枚に、
「任せないこと」
「人間へ戻す条件」
「言わせないこと」
「扱わせない情報」
だけを書くところからでも始められます。
重要なのは文書の長さではなく、
同じ状況で同じ判断をしやすくすること
です。
Q.「任せないこと」を増やすと、AI導入の効果が下がりませんか?
短期的な「自動化率」は下がるかもしれません。
ただし、目的は自動化率を最大化することではありません。
実際に使われ、業務上の負担や時間が減ること
が目的です。
まず小さく任せ、使える範囲を確認しながら広げる方が現実的だと考えています。
Q.AIが間違えた場合、誰が責任を持ちますか?
用途や契約によって責任関係は異なります。
だからこそ業務設計の段階で、
AI出力を誰が確認し、誰が最終承認するのか
を決めておく必要があります。
Q.最初に何から始めればいいですか?
AIツールを比較する前に、
「自社の仕事を作業単位で書き出す」
ところから始めることをおすすめします。
その中から、
「AIへ渡せそうな部分」
「人間側へ残したい部分」
を分けると、必要なAIが見えてきます。
まとめ|AI導入は「できること探し」だけではない
AI導入は、ツールを入れることだけではありません。
AIと人間の仕事を、どう分け直すか。
その設計です。
そのために、導入前に最低限、
- 任せない業務
- 人間へ引き継ぐ条件
- 言わせないこと
- 扱わせない情報
の4つを決める。
そのあとにツールを選ぶ。
私自身も現在、自社AIコンシェルジュでこの順番を実験しています。
まだ完成していません。
だから、
「この方法が正解です」
とは書きません。
ただ、少なくとも仕様書を書いた段階で一つ気づきました。
できることを増やすだけでは、任せられるAIにはならない。
どこまで任せないかを決めることも、AIを作る仕事だった。
実装後、この仮説が本当に通用したのかも公開します。
AIと人間の役割分担そのものを整理したい方へ
SolunaProjectでは、AIツールを代わりに操作することそのものではなく、
「あなたの何をAIへ渡し、何を人間側へ残すのか」
を整理するところから支援しています。
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