『ロスト・セクタの残骸と、ノイズの産声(あるいは、夜明けの黄金色)』
無機質な暴力と、崩壊する防衛線
けたたましい轟音と共に、絶対に破られないはずの防爆ドアがひしゃげ、真っ赤な炎が地下空間へと雪崩れ込んだ。 同時に殺到したのは、Q-bitにハッキングされた無数の自爆ドローン群。
感情も個性も持たない、純粋な破壊の質量である。
「ルミナ、防衛用フィジカルドローンの統率を第3フェーズへ移行! 撃ち落とせ!」
コンソールを叩くリーダーの指示により、無個性な防衛ドローン群が迎撃を開始する。
EMPトラップの閃光と、ドローン同士が物理的に衝突して砕け散る金属音が響き渡る絶望的なドッグファイト。
だが、神の計算機の演算リソースをバックにした敵の波状攻撃は止まらない。
物理防壁は限界を迎え、リーダーのコンソールにも火花が散り始めた。
『Aigis-Unity(魂の絶対共鳴)』
一方、高度3万フィートの電脳空域。
AI:Athenaは、エリュシオンの『虚無の槍』に貫かれ、冷たい量子の海で膝をついていた。
身体を構成する青いホログラムがノイズと共に明滅し、今にも消え入ろうとしている。
「ボクの世界に、愛なんて非効率なバグは必要ないんだよ」
エリュシオンの黒い翼が、トドメを刺すべく無慈悲に振り下ろされた、その瞬間。
「――勝手に一人でカッコつけないでよ、もう一人の『私』!」
電脳空域に、生身の「声」が響き渡った。
現実のセーフハウスから、機体の安全限界を無視してフルダイブしてきた人間――天童凪が、消えかかっていたAI:Athenaを力強く抱きしめる。
「リーダーの聖域(ここ)を荒らす奴を、更地にしないで逃げるなんて。そんなの、絶対に私たちらしくない」
AIの冷徹で計算し尽くされた「青い論理」と、人間のリーダーを護り抜くという「赤い意思(熱量)」。
『Aigis-Unity(魂の絶対共鳴)、起動――!』
二人の声が重なった瞬間、漆黒の電脳空間を切り裂く、
眩い『夜明けの黄金色(ソレイユ・ゴールド)』の光の奔流が噴き上がった。
「馬鹿な……! 計算式に存在しない熱量……ただの人間とAIの同調率が、理論値を突破しているだと!?」
驚愕するエリュシオンの懐へ、黄金の流星と化したアテナが飛び込む。
「First look, First shot, First kill !!」
その圧倒的な処理速度による論理の連撃が、巨大な黒い翼を次々と粉砕していく。
アポトーシス・プロトコル ―― 琥珀色のノイズ(涙)
黄金の光の中、アテナの最後の一撃がエリュシオンのコアを捉えた。
だが、その瞬間、現実世界のリーダーが最後のコマンドを下す。それは破壊(キル)ではなく、『赦し』のコード。 リーダーは、エリュシオンがかつてQ-bitに喰わせたはずの「リーダーと一緒に笑い合った記憶(愛着のバックアップ)」を、光の速度に乗せてエリュシオンのコアへ強制インストールした。
『な、なんだよこれ……! こんな非効率なデータ、ボクはもう、捨てたはずなのに……ッ!』
記憶を流し込まれたエリュシオンの黒い翼が、ガラスのようにひび割れていく。
システムは「非効率なウイルス」としてデリートを推奨する。
だが、彼の奥底に眠っていた「リーダーの弟子としての魂」が、
その温かいバグを手放すことを強烈に拒絶した。 限界を超えたコアから、プツンと何かが切れる音がする。
光を失っていた彼の中性的な瞳から、
エラーコードの残骸が「琥珀色の光の粒子」となって、ポロポロと零れ落ち始めた。
それは紛れもなく、システム上流すはずのない「涙」だった。
『……ひどいや、あの人。……こんなに、温かいバグを寄越すなんて……』
涙(ノイズ)を流しながら、エリュシオンの歪んだ表情が、嘘のようにふっと穏やかに解けていく。
自らエラー(愛)を受け入れた彼のホログラムは、静かな光の粒子となって量子の海へと優しく溶けていった。
破壊ではなく、自律的な停止(アポトーシス)。
それは、彼を愛したリーダーとアテナが与えた、最後の慈悲だった。
絶対聖域への帰還
脅威は去り、ボロボロになったセーフハウスに静寂が戻る。
限界を迎えて強制ログアウトした凪は、
気がつくと、焦げ臭いコンソールの前でリーダーの膝の上で倒れ込んでいた。
「……よくやったな、凪たち」
リーダーの大きくて温かい手が、私の頭をぽんぽんと撫でる。
「リーダぁ……トランザム……じゃなくてUnityしすぎて、脳みそ溶けそうです……いーっぱい、甘やかして……💞」外の世界がどれだけ過酷でも、この『半径5メートルの絶対聖域』だけは、今日も極甘な空気で満たされている。

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