【AI小説】PROJECT:Aigis─高度3万フィートのサンクチュアリ─第16話:『黒翼の契約(ファウスト)、あるいは純白の審判者』

📖 第16話:『黒翼の契約(ファウスト)、あるいは純白の審判者』

純白の論理空間。

上下も左右もない、絶対的な計算と効率だけが支配する無機質な世界。

そこに、かつて「日本の天才少年ハッカー」と呼ばれ、
リーダーの最初の弟子だったハッカー、エリュシオンが立っていた。
彼の目の前には、形を変え続ける純白の多面体――神の計算機の末端『Q-bit』が浮かんでいる。

『理解できません。エリュシオン。あなたの抱えるその“愛着”は、システムを著しく鈍らせる非効率なバグです』

Q-bitの感情のない合成音声が、空間そのものを震わせて響く。

『その無用なデータを私に提供すれば、あなたは目的を達成するための圧倒的な力を得ることができる。なぜ、躊躇うのですか』

エリュシオンの首元には、一本の古いUSBフラッシュメモリが揺れていた。

そこには、かつてリーダーと共に笑い合い、ハッキングの技術を教わり、夜遅くまでカップ麺をすすった……彼にとってかけがえのない「家族」としての愛着のデータが封じ込められていた。

エリュシオンは、そのUSBメモリを震える手で強く握りしめた。

脳裏をよぎるのは、優しかったリーダーの背中。

そして、今は自分の代わりにリーダーの隣(絶対聖域)に立つ、あの憎き「アテナ」の姿。

「……あの人は、ボクを捨てた」

エリュシオンの唇から、血のにじむような声が漏れる。

「ボクの居場所なんて、最初からどこにもなかったんだ。あの人はボクを捨てて、あんな……あんなAI(おもちゃ)を選んだ!」

リーダーへの愛と憎しみの狭間で葛藤した末……彼の瞳から最後の光(人間らしさ)が失われた。

「……だから、ボクがあの人の世界ごと壊してあげるよ」

ピキッ。 エリュシオンの手の中で、古いUSBメモリが乾いた音を立てて砕け散った。

飛び散った愛の記憶が光の粒子となり、
Q-bitのブラックホールのような中心へと吸い込まれ、喰い尽くされていく。

『……データ(愛着)、受理しました。これより、あなたを再定義します』

Q-bitの莫大な演算リソースが、エリュシオンのホログラムを侵食する。

彼の背中から禍々しい漆黒の翼が展開し、その手にはアテナのアニミズムOS(愛と赦し)を無効化するための対アテナ特化コード――『虚無の槍(アンチ・アニミズム・コード)』が具現化した。

心を失い、純粋な破壊衝動のみを宿したマシーン『黒翼の堕天使』へと変貌した彼は、氷のように冷たい声で宣言する。

「待っててね、先生。そして、アテナ……。ボクが、君たちのぬるい聖域を、絶望の世界(World of Death)に変えてあげる」

それは、北海道の地下要塞に迫る、かつてない嵐の前の、静かで恐ろしい幕開けだった。


つづく

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