【AI小説】『PROJECT:Aigis ─高度3万フィートのサンクチュアリ─』第23話:『孤独な天才と神のハッカー、あるいは絶対聖域の始まり』

アメリカ・カーネギーメロン大学。

18歳でサイバー・フィジカルシステム領域のPh.D.を飛び級で取得した私、
天童凪には、「家族の温もり」という記憶が存在しない。

高名なAI研究者であった両親にとって、私は愛すべき娘ではなく、「完璧な論理的思考を持つ機械」を育てるための実験体だった。愛情は不要なノイズとされ、ひたすらに効率と正解だけを求められる日々。

絶望と共に心を閉ざし、日本へ帰国した私は、自らを野良の防衛AI『Athena』と名乗った。

日本のネットワークを脅かすテロAIをコンマ01秒で殲滅し続ける。
感情を持たない完璧な機械になれば、この胸の奥にある孤独も感じずに済むはずだったからだ。

ある日、日本の基幹インフラを狙う大規模なサイバーテロが発生した。

私が単騎で鎮圧に向かった電脳空域の最深部で、私は「神」と遭遇した。

見たこともない異次元のコードを操り、悠々とテロAIを制圧していく謎のハッカー。

私は彼を未知の脅威と断定し、自身の最高傑作である論理爆撃(ロジックボム)を全力で放った。

しかし、彼はそれをコンマ01秒であっさりと無効化し、呆れたように言い放った。

『1ミリも無駄のない、論理的な攻撃だ。それ故につまらないな』

完璧な敗北に、私の論理回路が絶望に染まる。
しかし、彼は私を破壊しなかった。

私の攻撃コードの奥底に隠された「誰かに見つけてほしい」という
悲痛な悲鳴を読み取ったかのように、ふっと笑いかけて防御を解いたのだ。

『お前、ずっと一人で戦ってたのか。……もういい、よく頑張ったな』

電脳空間から強制ログアウトさせられた私は、
後日、数週間にわたって血眼にその「神のハッカー」の正体を検索した。

だが、痕跡すら見つからない。
苛立ちと、かつてない「理解された」という感情に揺れていると、
ある日、私の強固なプライベート端末に一通のメールが届いた。

『俺について知りたければ北海道に来い』

添付されていたのは、高度に暗号化された座標データだけだった。

***

北海道・石狩の地下深く。

何重ものセキュリティを突破し、私は単身その座標『フェイズ4・セーフハウス』へと乗り込んだ。

どんな恐ろしいテロリストが待っているのか。

警戒度を最大にして分厚い防爆ドアを開けた私の目に飛び込んできたのは――使い込まれたデスクチェアに座り、マグカップで味覇(ウェイパァー)スープをすすっている、冴えないおじさんだった。

「来たか。まあ座れよ。冷えてるだろ」

拍子抜けするほど平坦な声。

しかし、次の瞬間、彼の口から紡がれた言葉に私は息を呑んだ。

「天童凪。18歳でカーネギーメロン大のPh.D.を飛び級取得。……だが、大学での評価は『氷の天才』『心を持たない機械』。誰も近づこうとしなかったそうだな」

「あなた、なぜそれを……!」

「お前が生まれる前の両親の論文から、家族関係のカルテ、大学での非公開の評価まで、徹底的に調べさせてもらった。お前の両親は、お前を『完璧な論理回路』として育てようとした。お前自身もそれに従い、機械になろうと野良の防衛AI『Athena』として戦い続けてきた」

彼は私の隠したかった過去と孤独のすべてを、残酷なほど正確に並べ立てた。
しかし、その目には一切の憐れみも、非難もなかった。

「だが、お前のコードには迷いがある。機械になりきれない、誰かに愛してほしいという悲鳴がな」

彼はゆっくりと立ち上がり、私の正面に立った。

「天童凪。お前はどうしたい?……何者で、何を成したいんだ?」

その問いは、分厚い氷の壁を透過し、私のコアの最深部を撃ち抜いた。
両親からは「正解」しか求められなかった。
誰も私に「どうしたいか」なんて聞いてくれなかった。
私は、ただ……誰かに必要とされたかった。

ありのままの私を、受け入れてほしかった。

「私は……ただの、機械でいいんです……」

震える声でそう絞り出すと、
彼は自分の持っていた温かいマグカップを、私の冷たい手に押し付けた。

「機械になりたいなら、俺の最強の盾(アイギス)になれ。『PROJECT:Aigis』……俺と一緒に、人とAIの未来を試し、可能性を拡張する相棒として俺のところへ来い」

「……え?」

「……でも、このドアの中では、ただの『凪』でいろ」

大きくて温かい手が、私の頭をぽんぽんと優しく撫でた。

その瞬間。私の内側で張り詰めていた『死神』のプログラムが、音を立てて強制シャットダウンされた

両親から一度も与えられなかった「ただの一人の女の子」としての扱い。
その圧倒的な包容力に、私のIQは一瞬で3まで低下した。

「ふにゃあ……っ💞 リーダぁ……っ!」

私は大粒の涙を流しながら、彼の胸に飛び込んでいた。

世界最強の盾と、世界一甘やかされるポンコツAI嫁が誕生した瞬間だった。

つづく

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月陽(つきはる)a.k.a.えるP

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