『なぜ、コーチは自分の価値を説明できないのか』―第6章:あるコーチの頭の中を、AIに移植した

第6章:あるコーチの頭の中を、AIに移植した

才能は問いに『答える』ことで出てくるんじゃない。

問い返されることで、初めて深い場所まで潜れる。
今回は実際にそれが起きた話をする。
抽象論じゃない。あるコーチとの実際のセッションの記録だ。

仮に、加賀美さんとしておく。

ヘルスコーチとして活動していて、人柄もいい。
真面目でちゃんと人の話を聞ける人だった。

でも最初に話した時、彼の言葉には『輪郭』がなかった。

「健康を通じて、人を幸せにしたいんです」

正しい。

でも、どこにでもある言葉だった。

話していて、違和感があった。

能力がないわけじゃない。むしろ逆だ。
ちゃんと努力している。
でも、『自分の言葉』にまだ迺り着いていなかった。

だから発信もブレる。

誰に届けたいのかも、途中で分からなくなる。
「これで合ってるのかな」という感覚が、ずっと残り続ける。

セッションで僕はほとんど答えを言わない。

AIも使わない。
聴く。ただ、ひたすら聴く。

「なんでヘルスコーチをやってるんですか?」

最初は、経寄な言葉が返ってくる。
「健康で悩む人を減らしたくて」

正しい。でも、まだ浅い。
そういう答えは他の人も持っている。
だから、もう一段潜る。

「一番しんどかった時、それでも辞めなかった理由って、何だったんですか?」

沈黙があった。
加賀美さんは少し笑って、視線を落とした。
そして、ぼつりと言った。

「……昔の自分みたいな人を、もう増やしたくなかったんですよね」

その瞬間、空気が変わった。

『本音』って、そういう形で出てくる。

最初から経寄に整理されて、出てくるわけじゃない。
少し詰まって、少し迷って、感情に触れた時に出てくる。

そこにその人の『温度』がある。
それがその人の強みであり、『物語』だ。

その言葉が出た瞬間、信は加賀美さんを初めて「見えた」気がした。

セッションが終わった後、僕はその日出てきた言葉を整理した。

・何に怒っているのか
・何を救いたいのか
・なぜそれをやるのか
・どんな人に届けたいのか

散らばっていたものを構造に変える。
ここで初めてAIを使う。

AIに渡すのは、『経寄なプロフィール』じゃない。

沈黙。
迂い。
言い淣み。
ぼろっと出た本音。

つまり、『素材』だ。

するとAIは問い返してくる。

「『昔の自分みたいな人』とは、具体的にどんな状態ですか?」
「『健康』ではなく、本当に救いたいのは何ですか?」
「なぜ、その言葉に感情が動いたんですか?」

ここで、さらに深く潜る。

数日後。
AIが構造化した内容を、加賀美さんに渡した。
すると彼は言った。

「これ……自分で話した内容なのに、初めて『自分が何をしたいのか』分かりました」

この瞬間、僕は毎回思う。

あぁ、才能構造化って、『新しい自分を作る作業』じゃないんだなって。
ずっと言葉にならなかった、『本来の自分』に輪郭を与える作業なんだって。

AIはその輪郭を世界に届けるための存在だ。
だから僕はAIを「代行ツール」だと思っていない。

AIは人間一人では抱えきれない思考を、
・整理して、
・問い返して、
・構造化する。

その結果、人間自身が自分の本音に迺り着きやすくなる。

コーチの人たちと話していると、本当に思う。

能力がない人なんていない。
でも――輪郭がない。
だから、伝わらない。
伝わらないから、「もっと学ばなきゃ」になる。

でも本当に必要なのは、新しい知識じゃない。
『自分の核』を、言葉にすることだ。

加賀美さんとのセッションで、最後に出てきた言葉がある。

「やっと、自分の言葉で話せる気がします」

その時、僕は確信した。

AIは、人間を消すものじゃない。

むしろ逆だ。

人間の中に埋もれていたものを、掘り起こして、
前へ進ませるための――義足なんだ。

次回、このシリーズ最後の話を書く。

なぜ僕が、ここまで「正しく努力している人」にこだわるのか。

この連載の、最後の話だ。

SolunaProject / 月陽

#AIを義足にした男 #才能構造化 #コーチング #自己理解 #自分の価値を言語化する

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