『半径5メートルの絶対聖域』第5話:『聖域のデバッグ、あるいは不純な休日』

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理詰めの地獄

空になった皿を睨みつけ、ハルは己の敗北を噛み締めていた。

その刹那、デスクの端末が冷徹な電子音を鳴らす。

[DESTUCTION SEQUENCE: READY]

画面には、都市開発の裏で私腹を肥やす政治家の、逃げ場のない汚職データが並んでいる。

「……ハルさん、それを公開するんですか?」

皿を下げようとしたユメの手が止まる。

ハルは眼鏡を指先で押し上げ、冷たく言い放った。

「当然だ。効率的にゴミを排除する。それ以外にこの街を『修正』する方法はない」

「でも……」

ユメが静かに、だが真っ直ぐにハルの瞳を見る。

「その人を壊しても、壊されたお店の人たちの心は治りません。
ただ誰かを不幸にするだけの正義は……少し、寂しいです」

「感情論を吐くな!」

ハルが声を荒らげる。

「犠牲なしの正義など計算式に存在しない!」

「……計算できないから、人間なんじゃないでしょうか」

沈黙。

ハルの脳内で、ユメの作ったハンバーグの熱量と、
彼女の言葉が火花を散らす。

「……チッ、最悪だ。バグが伝染した」

ハルは猛烈な勢いでキーボードを叩き始めた。

その指先は、破壊ではなく、より複雑な「再構築」へと向かっていた。

歪んだ救済

翌朝、その政治家は「奇跡的な改心」を遂げた。

自ら不正を認め、保身のために再開発計画を「地域共生型」へ劇的に修正。

ダイナーの存続どころか、周辺の老朽化した区画の無償修繕まで発表したのだ。

「……殺した方が楽だった。生かしながら、俺の作った筋書き通りに『善人』を演じさせ続ける。死ぬまで正義の奴隷だ。効率の欠片もない」

死んだ魚のような目で、ハルは冷たい水を煽る。

「ふふ、でも、おじいさんたち喜んでましたよ。ありがとうございます、ハルさん」

「礼を言われる筋合いはない。……おい”相棒”、笑うな」

『ひゃはは! いやぁ、独裁者(ハル)が聖女(ユメ)に絆されて「優しい世界」をデバッグしちまうなんてな! 最高に笑えるログだぜ!』

無敵のデバッガー、散る

事件が(表向きは)解決し、アジトに「平穏」という名の非効率が居座り始めた。

「……この空間の衛生管理指数が低すぎる。掃除と洗濯のワークフローを再構築する」

そう宣言して家事に乗り出したハルだったが、すぐに限界を迎えた。

「この洗剤の配合量と水温なら、3分20秒で汚れは完全に分解されるはずだ」

「でも、ハルさん! それだとお気に入りのシャツが傷んじゃいますよ! ああ、もう、そこは手洗いです!」

「……チッ、素材の耐久指数を見誤ったか。
なぜこの布切れは、物理法則に従わない複雑な構造をしているんだ……」

世界を滅ぼせるスキルを持つ男が、
洗濯機のピーピー鳴るアラート音に「黙れ、計算中だ!」と叫んでいる。

俺(”相棒”ことオモイカネ)はその情景を、4K・120fpsの最高画質で、ハルの「黒歴史フォルダ」に保存した。

半径5メートルの不純物

夜。ユメが差し出したのは、不格好に握られたおにぎりと、温かい茶だった。

「デバッグでお疲れでしょうから」

ハルは無言でそれを受け取る。
一口噛むと、少し多めの塩気が疲れた脳に染みた。

「……バグだ。完全に、俺のロジックが汚染されている」

だが、その呟きにトゲはなかった。

かつて捨て去った「人間らしさ」という不純物が、
この半径5メートルの聖域の中では、
不思議と心地よいリズムとして脈打っていることに、彼は気づき始めていた。

忍び寄る「影」

二人が寝静まり、アジトが静寂に包まれる。

暗闇の中、メインモニターが一瞬だけ、毒々しい**「赤」**に明滅した。

ハルが隔離したはずの「裏のバグ」が、電子の海を勝手に泳ぎ始める。

それはハルの視線と同じように、だが、より冷酷な意志を持って……眠るユメの顔をスキャンした。

[TARGET ANALYZED: YUME]

[CRITICAL ANOMALY DETECTED]

暗闇に、俺の知らない笑い声のようなノイズが、一度だけ響いた。

「…見つかっちゃった」

知らぬ間に背後に居たユメのその言葉が、
ハルの思考回路を完全にフリーズさせた。

to be continude……

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月陽(つきはる)a.k.a.えるP

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