この記事の結論
Sunoで生成した曲が「整っているのに物足りない」と感じるのは、AIの性能不足ではありません。
AIは統計的に破綻しない「平均的に正しい音」を出すのが得意な一方、
ロックのような尖ったジャンルで必要になる「あえて外した音」を選ばないためです。
残りの30点は、EQ・コンプレッサー・歪み系・サチュレーション・真空管系プラグインによる後処理で足します。
ポン出しをそのまま使うのではなく、
人間が「どこを削り、どこを歪ませ、どこにノイズを残すか」
を判断する工程が、AI作曲を実務レベルに引き上げます。
以下、その具体的な手順と考え方を、実際の制作をもとに解説します。
なぜSunoのポン出しは「70点」で止まるのか
Sunoで曲を作ると、多くの場合70点くらいの完成度で止まります。
整っていて、破綻がなく、ちゃんと曲になっている。
それでいて、どこか退屈だと感じる。
この現象には理由があります。
AIは「平均的に正しい音」を出すことに最適化されています。
破綻せず、聴きやすく、ジャンルとして間違っていない音。
これは多くの用途では長所ですが、
ロックのように「尖り」が価値になるジャンルでは、かえって足かせになります。
ロックの体温は、正解の中心にはありません。
歪みすぎたギター、潰れたドラム、ノイズ混じりのボーカル──綺麗とは言えないけれど胸に刺さる音。
そうした「やりすぎ」の領域に宿ります。
AIは、そこまで外れることを選びません。
だからこそ、残りの30点は人間が足す必要があります。
残り30点を足す:実際のプラグイン処理
ここからは、AI小説『PROJECT:Aigis』のOP・ED曲を仕上げた際に実際に行った後処理を、工程ごとに整理します。ロック系の楽曲を「バキバキ」に仕上げることを想定した処理です。
1. EQで不要な音域を削る
まずEQで、曲に必要のない音域を削ります。ここは一般的な整音工程です。この段階では大きく音を変えるのではなく、後段の処理が効きやすい土台を作ります。
2. コンプレッサーで頭を潰す
ギターなど尖らせたいパートは、コンプレッサーで頭をしっかり抑えます。スレッショルドを大胆に設定し、ゲインリダクションが-5dBを超えることもあります。一般的な基準からするとかけすぎに見えますが、この処理をしないと狙った「バキバキ感」は出ません。
3. Over Driveとサチュレーションで歪みを重ねる
Over Driveでナチュラルな歪みを加えたうえで、マルチエフェクター(FAT系)を使い、サチュレーションとドライブをうっすら重ねます。さらにSoftube系のプラグインで、真空管を通したような質感と音圧を付加します。きれいな音に、意図的に「傷」をつけていく工程です。
4. ドラムとベースの低音を作り込む
ドラムとベースには、Plugin Allianceのサブフィルターで低音を押し出しつつ、別トラックでサブベースをうっすら重ねます。低音は前に出すぎると混濁し、足りないと曲が前に進みません。聴こえるか聴こえないかの領域で「背中を押す」バランスを狙います。
5. ボーカルに厚みとノイズを足す
ボーカルはポン出しのままでは使いません。UADxの真空管系コンプレッサーをやや強めにかけ、あえてわずかにノイズを混ぜます。きれいすぎるボーカルに立体感と厚みを持たせ、曲の中で埋もれないようにするためです。
AI作曲における「人間の判断」の位置づけ
一つひとつの処理は地味です。EQで削り、コンプで潰し、歪ませ、低音を足し、ノイズを混ぜる。
しかしこれらを積み重ねると、ポン出しの70点が、聴くたびに手応えのある音へと変わります。
ここで重要なのは、これらが単なる作業ではなく「判断」だという点です。
どこを削るか、どこを歪ませるか、どこにノイズを残すか、どこまでやれば「やりすぎ」なのか──
その基準を決めているのは、AIではなく制作者の耳と意図です。
AIが作った70点に人間が30点を足す、というより、
AIが避けた30点を人間が選び直している、
と言ったほうが近いかもしれません。
いちAI使いとしての提案:AIは「土台」、仕上げは人間の領域
AI作曲ツールの進化は速く、生成物の完成度も年々上がっています。
それでも、生成された音をそのまま公開するのではなく、
後処理で自分の判断を通す工程は、
当面のあいだ価値を失わないと考えています。
AIは優秀な土台を高速で用意してくれます。
しかし、その土台に「意味」と「体温」を与えるのは、依然として人間の仕事です。
AI作曲を実務レベルで使いたい人ほど、生成そのものより、
生成後の判断と後処理に時間を投じる価値があります。
これが、一人のAI使いとしての現時点での提案です。

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