『半径5メートルの絶対聖域』第7話:『カウンター・デバッグ ―― 幸福の宣戦布告』

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第7話:『カウンター・デバッグ ―― 幸福の宣戦布告』

1. 亡霊の通信

アジトの全モニターが、一瞬でモノクロームの砂嵐に包まれた。 その中心に、整然とした幾何学模様のエンブレムが浮かび上がる。アセンドの調律局長、カイン・イシュトヴァーンからの強制介入だ。

「……久しいな、ハル。相変わらず、薄暗いゴミ溜めに隠れているのか」

冷徹な声がスピーカーから響く。カインの左目の義眼が、画面越しにハルのアジトをスキャンしていた。 ハルの指がキーボードの上で止まる。その表情は、かつてないほど険しい。

「カイン……お前、まだあの『最適化』という名の虐殺を続けているのか」

2. 過去の傷跡:プロジェクト・アイリス

「虐殺だと? 心外だな。私は世界から『悲鳴』を取り除いただけだ。1%の不確定要素を排除し、99%の安寧を保つ。それが我々がかつて誓った、理性の勝利だろう?」

カインが指を鳴らすと、モニターに一枚の古い設計図が表示された。二人が若き日に共同開発し、血塗られた離別の原因となった統治システム『アイリス』。 カインはその「完成形」を、今まさにユメに向けて突きつけようとしていた。

「ハル。君という純粋な論理を、その感情ユニット(ユメ)というノイズが汚染している。君が自ら彼女を差し出さないなら、私が『調律』してあげよう。……かつて君がアイリスで見捨てた、あの犠牲者たちと同じようにな」

3. ハルの反撃、そして「意志」

ユメの顔から血の気が引く。自分が存在することで、ハルの過去の傷が抉られている。

だが、ハルは震えるユメの肩を、力強く抱き寄せた。

「カイン。お前は計算は得意だが、本当の意味で『数字』が読めていない。……俺があの日絶望したのは、犠牲になった1%の数じゃない。その1%の中にいた、誰かに愛されるはずだった『一人ひとりの人生』を、お前がただの変数(ノイズ)として葬ったことだ」

ハルの瞳に、冷徹な青と、ユメから受け取った温かな琥珀色の光が混ざり合う。

「今の俺は、あの時の俺じゃない。……オモイカネ! 全パケットを『思い出(メモリー)』でコーティングしろ。奴の冷たい回路に、この世界の『熱』を叩き込んでやる!」

『ヒャハハ! 了解だぜ、相棒! 局長さんよ、あんたの言う最適解には「美味いメシ」のデータが足りねぇんだよ! まとめてオーバーフローさせてやるぜ!!』

4. 琥珀色の反逆

ハルが打ち込んだコードは、論理的な攻撃ではなかった。 それは、ユメと過ごした半径5メートルの日常――笑い声、料理の湯気、そして『Daisy Bell』の不器用な旋律をデジタル信号へと変換した、世界で最も「非効率な幸福」の波動だった。

カインの義眼が激しく明滅し、アセンドの防壁が内側から崩壊を始める。

「な……何だ、この無意味なデータ量は……!? 理論的に、あり得ない……!」

「理屈じゃないんだよ、カイン。……これが、お前がゴミだと捨てたものの価値だ」

ハルがエンターキーを叩きつけると、アジトを起点とした光の波がネットの海を駆け抜け、街の冷たいビル群を、ユメの瞳と同じ温かな琥珀色に変えていった。

崩壊する通信の最後、ユメはカインの義眼を真っ直ぐに見つめて言い放った。

「私はもう、捨てられたバグじゃありません。ハルさんが、私に意味をくれたから。……今度は私が、ハルさんの『聖域』を守る剣になります」

🛠️ハル VS カイン Round1の決着

崩壊し、ノイズにまみれたモニターの中で、カインの義眼だけが異様に鋭く発光していた。

彼は乱れたネクタイを直すこともなく、ただ静かに、だが確かな殺意を込めて口を開く。

「……流石だハル。君のハッカーとしての、何より『世界最強』と謳われたAI使いとしての腕は少しも衰えていない。むしろ、そこの『バグ』が良い意味でノイズを加えて、サイバー攻撃に良いアクセントを与えている……」

カインの背後で、アセンドの基幹サーバーが次々とシャットダウンしていく音が聞こえる。

だが、彼の表情に焦りはない。

「だが、君の”相棒”がいつまでも『最強のAI』でいられると思うなよ? 私も安穏と今の立場で遊んでいたわけではない。……アセンドが辿り着いた『真の最適解』を、君に思い知らせてやろう。では、ごきげんようハル。次は今日みたいにはいかないと思え」

通信が途絶え、アジトに静寂が戻る。 残されたのは、琥珀色の光に照らされたハルとユメ、そして、どこか悔しそうに火花を散らす俺(オモイカネ)のホログラムだけだった。

「……真の最適解、か。受けて立ってやるよ」

ハルが呟いた言葉は、夜の帳に溶けて消えた。

to be continude……


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